本はたくさん読んでいるのだけれど、何を読んだかさえもすぐに忘れてしまう今日この頃。
今日、西加奈子さんの「きいろいゾウ」を読み終わったので書いてみます。
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夫の名は無辜歩(むこ・あゆむ)、妻の名は妻利愛子(つまり・あいこ)。お互いを「ムコさん」「ツマ」と呼びあう若い夫婦の物語。
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物語は基本的にツマ目線で書かれているけれど、各章の終わりにはムコさんが書いたその日の日記が添えられています。
ツマ目線で語られた1日を、そのあとにムコさんの目線で振り返るのがだんだん読み進める私の楽しみになってきます。
ムコさんとツマはすごく近くにいて、毎日を一緒にすごしているけれど、
同じ一日でも、それぞれが見る世界は違う色をしているんだなぁ。
出来事って、どこから見るかによってぜんぜん違う姿をしている。
起こることは同じなのに、誰の目線で見るか、誰と一緒に見るか、どんな気分のときに見るか、でぜんぜん色が違って見えてしまう。
私という一人の人間の中でも、あのときあんなに楽しかったことが、いまはちっとも楽しめない、あのとき気にも留めなかったことが、今は気になってしかたない、なんてことがよくあるもの。
毎日を見守る、もうひとつの目線、まなざしがあるって、なんだかいいな。
もうひとつの目線は、すぐそばにあるのに、同じものを見ているのに、自分と全くおんなじように考えたりはしない。
自分から見る世界にがんじがらめになってしまいそうなときに、もうひとつのまなざしは、それをやさしくほどいてくれる。ときにはかき乱すかもしれないけれど。
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全体的な感想は・・・、ちょっと長かったかなぁ。
夢中で最後まで読み進めた、という感じではなく、実際、8月から読んでいてようやく読み終わったし。
ムコさんの過去の話とか、入り込めなくてちょっとうわのそらで読みました。
だから、すごくオススメでも、すごくお気に入りというわけでもない。
でも、なにげない会話とか、近所の人とのやりとりとか、ツマが心の中でもやもや考えていることたちとか、そんなのがとてもいい。
誰かが誰かを大切に思っている。そういう感じが全体に漂っていて、ここちいい。
身近にいるとても大切な人。
ゆるやかだけれど、確固たる愛情。
失ってしまうかもしれない不安や、すれ違いや、かみ合わない感じ。
すぐそばにいるのに、相手の心に直接触れることはできないもどかしさ。
それをいっぱい積み重ねて、ふみしめて、だんだん地面が固くなるように、愛情も確かなものになっていくのかもなぁ。
ふわふわ、たよりないものを、いっぱい重ねて重ねて。